新国立劇場2002/2003シーズン
「イル・トロヴァトーレ」

2002.11.30.Sat.15:00 / 12. 1.Sun.15:00　新国立劇場オペラ劇場

ヴェルディ：歌劇「イル・トロヴァトーレ」（4幕、字幕付）

　躍動感と旋律美に溢れたこのオペラですが、なんか「歯欠け」って感じの公演でした。個々を取り出してみるといい部分も多かったのですが、プロダクションとしてのまとまりが非常に希薄で、かなり退屈だったというのが正直なところです。

　レオノーラの二人は5月の「トスカ」でもタイトルロールを演じていましたが、ファンティーニは「トスカ」の方が、ニッツァは今回の方が良かったように感じました。ファンティーニを聴くのはこれが4回目となりますが、今回聴いて強く思ったのは、彼女の場合ヴェルディ中期の作品は難しいのではないでしょうか。もっと感情を旋律にそのまま乗せられるプッチーニなど、どちらかというとヴェリズモ系のオペラの方が彼女の魅力が最大限に発揮できると思います。ニッツァは前回よりも調子が良かったのでしょう。声の荒さもだいぶ改善されたように思います。ただし、二人ともなんですが、第1幕と第4幕のアリアの印象がサッパリ残っていないんですよね。二人とももっとオペラとしての「歌」が聴けるといいのではないでしょうか。

　マンリーコの二人については、なぜこんな人を呼んだのでしょうって思いを強く抱きました。ランド・バルトリーニは中音域の声はとても素晴らしいのですが、如何せんテンポに乗れない、音程が定まらないなど「歌」としては全く聞き物になりません。右手でテンポを取りながら歌うオペラ歌手を今回初めて観ました。インテリザーノもほとんど印象に残っていません。大きい破綻はないのですが、小さな感動すらありませんでした。まぁ「大きな破綻」がないだけでも良しとしないといけないのかもしれませんが。

　ルーナ伯爵の堀内も期待が大きすぎたのでしょうか。「スタイリッシュ」という言葉が遙か彼方に吹き飛んだような歌い方でした。1月の藤原「椿姫」で抱いた危機感も11月の同公演でだいぶ消え去ったのですが、1月の状態に逆戻りした感じです。新国には今後「ラ・ボエーム」と「アイーダ」に出演しますが、いい状態であることを祈っています。もう一人のルーナの谷は10月の「ルチア」よりもずっと良かったのは嬉しい驚きでした。ただし、「状態がいい」と「素晴らしい」とは意味が異なり、早く後者を感じられるようになるといいのになと思いました。

　昨年12月の「ドン・カルロ」が残念な状態だったデヴァー＠アズチェーナは今回は持ちうる力をだいぶ出したのではないでしょうか。ただし、どうしても力任せのようなところが散見されました。また、高音部は前回同様鬼門かなとも感じました。もう一人のアズチェーナのアンナ・マリア・キウリは今回のキャストの中でもっとも充実した出来でした。6月の「カルメン」で感じた魅力と別の面を見せてくれました。この役についてインタビューで「あまり年を取っていない」と言っていた記憶があるのですが、まさにそういう役作りだったと思います。その分若い、力強いアズチェーナを作ることに成功していたのではないでしょうか。

　指揮者のカレッラは時々いいドライブを聴かせてくれましたが、自分の主張と歌手のやりたいことを折半したからでしょう、かなり中途半端になり、全体が引き締まらなかった原因を作り出していたと思います。歌う人によってテンポががらりと変わったり、突然速くなったり、ずいぶん落ち着きない印象を受けました。もしかしたら、いい歌手がそろったら魅力がずいぶんと出るのかもしれません。いい指揮者であれば状態の悪い歌手でも無難な出来に収められたと思います。カレッラはその点が欠けていたのでしょうね。

　演出についてはもはや言うことは何もありません。税金の無駄遣いはやめてもらいたいですね。中途半端なモダンな演出の中、アズチェーナが歌うシーンではガスバーナーを点火するなど妙に具象的なところもあったり…ダメの見本って感じですね。こんな彼の演出する「オテロ」はどんな舞台になるのでしょうか…

　今シーズンのこれまでの演目の中では一番残念な出来の公演となりました。今度「トロヴァトーレ」を上演するときは、別の演出でお願いしたいと思います。

2002年インデックスに戻る　　「コンサートの感想」トップに戻る　　トップページに戻る