新国立劇場2002/2003シーズン
「ルチア」
2002.10.13.Sun.15:00 / 10.14.Mon.15:00 新国立劇場オペラ劇場
ドニゼッティ：歌劇「ルチア」（2部（3幕）、字幕付）
| スタッフ | ||
| 指揮 | パオロ・オルミ | |
| 演出 | ヴィンチェンツォ・グリゾストミ・トラヴァリーニ | |
| 美術・衣裳 | アルフレード・トロイジ | |
| 照明 | 磯野睦 | |
| 振付 | 石井清子 | |
| 合唱指揮 | 三澤洋史 | |
| 合唱 | 新国立劇場合唱団 藤原歌劇団合唱部 |
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| 管弦楽 | 東京フィルハーモニー交響楽団 | |
| キャスト （a:10.13. / b:10.14.） | ||
| ルチア | チンツィア・フォルテ(a) ヴィクトリア・ルキアネッツ(b) |
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| エドガルド | ファビオ・サルトーリ(a) ヴァルター・ボリン(b) |
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| エンリーコ | 谷友博(a) ロベルト・フロンターリ(b) |
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| ライモンド | 若林勉(a) 久保田真澄(b) |
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| アルトゥーロ | 角田和弘(a) 松浦健(b) |
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| アリーサ | 竹本節子(a) 河野めぐみ(b) |
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| ノルマンノ | 於保郁夫(a) 有銘哲也(b) |
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新国立劇場では初のドニゼッティの作品となりました（ベッリーニはまだまだ先でしょうか…）。最近ではグルベローヴァとデヴィーアという究極のダブルキャストを擁したフィレンツェ歌劇場のプロダクション、佐藤美枝子、佐野成宏、堀内康雄という日本人最高のキャストを集結した藤原歌劇団のプロダクションが上演されています。
「ルチア」を語る上で最初に取り上げるべきはやはりタイトルロールでしょう。ルキアネッツ、フォルテとも持っている力を十分に出していたのではないでしょうか。フォルテについては今年1月の「椿姫」を聴いていてかなり危機感を抱いていたのですが、その多くは吹き飛んだといってもいいと思います。彼女の声質から考えてヴィオレッタよりも随分フィットしていたように感じました。ルキアネッツについてもこれまで聴いてきた中でコンディションは最も良いように思えました。声を無理せずに空間に乗せられているように感じられたんですよね。これまでの彼女ではなかなか感じることができなかったことだったことを考えると、彼女のレパートリーとしてもこれまで演じてきた役よりも適しているのでしょう。二人とも嬉しい驚きを感じることができました。
ルチアの恋人であるエドガルドですが、サルトーリは「上手く」歌っていて、声量も適度にあるのですが、何か突き抜けるものが一つ足りないように感じました。演技力も全くないのですが（これも困りもの）、もう一歩「押し」が欲しいんですよね。だから聴いてもあまり印象に残らないように感じました。ボリンは「悪い意味」で印象に残ってしまいました。まぁ9月の「椿姫」を聴いたら怖いものはないぞって感じだったのですが、二人のルチアと同様レパートリー的に向いているのと、指揮者によって「椿姫」の悪夢を（少しは）振り払ってくれました。しかし歌い口の危うさは相変わらずで（これを「下手」と言ったらそれまでなんですが）、こんな状態で舞台の上に立つのは聴衆に対しても、歌手やスタッフに対しても失礼だと思いますね。もしかしたらものすごい上がり性なのかとも感じたのですが…
エンリーコの二人についてはベテランと若手の差がくっきりと出る結果となりました。フロンターリは押しも立派で演技面歌唱面ともに大いに満足することができました。第2部第1幕第1場のルチアとの二重唱、第2部第2幕第1場のエドガルドとの二重唱は特に冴えていたと思います（後者はエドガルドが随分と流れを引っ張っていたようにも感じましたが）。それに対して谷は「頑張っている」姿がありありと感じられ、しかも肝心なシーンは声を無理に張り上げ、演技も無いという状態でなぜ舞台に立たせたのか不思議な感じです。彼の持っている力は決して悪くない（どころかこの世代ではピカ一でしょう）のに無理をさせてはいけません。彼は11〜12月の「イル・トロヴァトーレ」にもルーナ伯爵で登場しますが、大切な時期にこんなことをさせると将来を悲観せざるを得ません。これは今回だけに限りませんが、若手の売り出し方にはいつも「？」を感じてしまいます。可能性のある若者をどんどん潰すシステムというのは絶対に避けなければなりません。
他の出演者で印象に残っているのはアリーサを演じた竹本節子とノルマンノの有銘哲也ですね。他の歌手は始めから酷かったか、最初は良かったものの途中でばててしまったように感じました。スタミナ配分には気を付けないといけませんね。それにしても、ライモンドの二人にはもっと踏ん張っていただきたかったです。
オルミの指揮にもいい意味で裏切られました。これまでのオペラを聴いていてかなり絶望視していたのですが、今回は過不足無く上手くまとめ、さらにドラマを盛り上げる力も持っていました。オケもよくやったと思います。音色は相変わらず「汚い」印象を持ってしまうのですが。そして合唱は相変わらず感心できません。今回も第1部の合唱でガッカリしてしまいました。ここが締まれば…と毎回思いながらもいつも裏切られてしまいます。
演出は「超」が10個付けてもいいようなオーソドックスな演出です。中途半端なモダンよりはずっとましなのですが、「ルチア」という「ドラマ」に新しい光を当てるには程遠いものでした。また、第1部第1場のエンリーコとノルマンノの対話の後ろで兵士がうろちょろしたり、第2部第1幕第1場のルチアとエンリーコのシーンでルチアが歌っている最中にエンリーコが手紙を暖炉の中に入れ燃える様子が描写されたりと、細かい芸がうるさいと思ったこともしばしばです。面白かったところも多少はあり、第2部第2幕第2場の「狂乱の場」で、純白だったシーツ（？）が途中から真っ赤になるところなんかは特にハッとしましたね。
さて、次のドニゼッティの作品は…「愛の妙薬」でしょうか。どうせならもっとマイナーなものを聴いてみたいですね。後は最初にも書きましたが、ベッリーニの作品を。ノヴォシーズンの2期目のテーマは「女性」みたいですが、ベルカントものにはふさわしい作品もたくさんあるように思えるのですが、果たして上演されるのでしょうか？？