藤原歌劇団
「イタリアのトルコ人」

2003. 3. 8.Sat.15:00 /  3. 9.Sun.15:00　東京文化会館大ホール

ロッシーニ：歌劇「イタリアのトルコ人」（2幕・字幕付）

　藤原歌劇団がマリエッラ・デヴィーアを主演に迎えての公演も3回目となりました。演出等には昨年に引き続きピエール・ルイージ・ピッツィを起用しましたが、今回も彼の美点とデヴィーアをはじめとする歌手陣の好演により、非常に楽しめた公演となりました。ただし、昨年のデヴィーア＆ガナッシの「カプレーティ家とモンテッキ家」と比べると、大分落ちてしまうかなというのも正直なところです。

　フィオリッラのお二人、とても素敵でした。デヴィーアは持ち前のテクニックで超絶技巧も楽々にこなしてしまいます。ただし、この役が求めている「軽さ」より、若干重かったかなとも。これは、テンポの設定によるところが大きいなと思いました。これが、デヴィーアに原因があるのか、指揮者に原因があるのか…　佐藤美枝子もとても「健康的」なフィオリッラを軽やかに演じていました。彼女の歌声は、デヴィーアよりも「生」を感じさせてくれます。これからも役柄を選んでさらなる高みを目指していただきたいです（2年連続のデヴィーアとの共演で得られることも相当多いのでしょうね）。

　セリムを歌った二人は明暗がはっきりと分かれました。マルコ・ヴィンコはようやく聴くことが出来ましたが（昨年9月のエクサンプロヴァンス国際音楽祭「フィガロの結婚」でお聴きになっている方も多いのではないでしょうか）、大きな満足を得ることが出来ました。1977年生まれということは、まだ25歳ですね。ロッシーニを歌う歌手は若いときから世界中を駆け回ることとなりますが、彼もそうなるのでしょうね。これからも定期的に聴いてみたい歌手の一人です。それに対して、矢田部一弘は完全なミスキャストでした。どう考えてみても彼の声に合っていない役柄です。これだったら1〜2月の新国「アラベッラ」のマンドリカの方がフィットしています（満足からはほど遠い出来でしたが）。Bキャストも充実していたのですが、彼がその中で一人取り残されている感じでした。

　ドン・ナルチーゾのお二人はまぁまぁって感じでしょうか。五郎部俊朗は高音はきれいに出せるのですが、そこに至るまでのプロセスで音楽の流れを作り出せていない感じです。一言で言えば、フレージングの問題でしょうか。また「歌う」ことはできてもそれが「ドン・ナルチーゾ」としてのリアリティを感じないのも問題です。「五郎部」を聴いている感じが最後まで拭えませんでした。一方、ラウル・ヒネメスは不思議なほど存在感が希薄でした。歌は一通り歌えているんですけどね。周りの歌手が充実しすぎていたのでしょうか…

　ドン・ジェローニオはBキャストの久保田真澄が歌と演技共に充実し、Aキャストのホセ・フリアン・フロンタルを圧倒していました。佐藤＆久保田はこれまで観てきたオペラでもなかなかいい感じのコンビでした。フロンタルはもっと役柄の掘り下げをした方が良かったと思います。久保田はこのオペラを演じるのは初めてなの？と思うぐらい役が身体に染み込んでいました。素晴らしかったです。

　詩人役のロレンツォ・レガッツォはこれ以上何を求めればいいのだろうと思うぐらい素晴らしかったです。狂言回しとしての役割を十二分にこなしていました。他の公演ではセリムを歌っているそうですが、ピッツィの強い要請でこの役を演じたとのこと。ピッツィの慧眼にも感服です。

　結構充実した歌手陣に対し、指揮とオケはかなり貧弱だったと思います。自由自在に飛翔する瞬間がほとんど訪れなかったのはどちらか一方の責任というよりも、両者の責任でしょう。オケには「歌心」を求めたいです。オケ奏者一人一人の自発的な音楽的アピールが全くと言っていいほど無いのではないでしょうか。これは合唱にも言えることですが、一人一人が「プレーヤー」ということをはっきりと意識する必要があると思います。

　ピエール・ルイージ・ピッツィの舞台はとても素敵でした。黒子の使い方も面白く、テンポよいこのオペラの流れを損なわずに舞台を作り上げました。昨年に引き続きの登場ですが、いつかは日本でプレミエを出せるといいなと思います。こういう海外の優秀なプロダクションを（安価に）観られるのも大歓迎ですが。

　さて、来年は「アルジェのイタリア女」です。今回フィオリッラを歌ったお二人がヒロインをやるのでしょうか？？　もっとも、この二人だったら「ランメルモールのルチア」も観てみたい気もしますが…

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