2004年1〜4月の公演駆け巡り
（ほぼ）毎年これでコンサートはじめとなっています。NHKニューイヤー・オペラ・コンサート。今年はチョン・ミョンフンが指揮するということで話題になりましたが、近年の同コンサートの中で最も内容が充実したものになりました。これはチョンのリードの巧みさと、全体の構成が非常に引き締まっていたことによるものでしょう。これまでは（適当なテーマで）だらだら垂れ流す、という印象もあったのですが、今年は「ラ・ボエーム」、「椿姫」、「蝶々夫人」の名アリアを中心に骨太の構成だったと思います。もちろん歌手にはデコボコ、色々な問題はあったのですが、全体的な構成がしっかりしていると、それなりに満足することができました。（1月3日（土）＠NHKホール）
劇団四季の「アンドロマック」は言葉の持つ響きの美しさを再認識するものとなりました。野村玲子、下村尊則、坂本里咲、芝清道の主演陣がそれぞれのキャラクターを丁寧に演じていました。ただ、もう一歩踏み込んだ表現があっても良かったかなとも。出演者が少ない戯曲なので、浅利慶太の演出にも不満はほとんどありません。（1月4日（日）＠自由劇場）
冬休みとして3泊5日のミュンヘン＆ウィーン旅行へ。到着直後に観たのがバイエルン州立歌劇場「こうもり」です。指揮は準・メルクル。これの詳しい感想は後日別ページにアップします。（1月10日（土）＠バイエルン州立歌劇場）
翌日の午前中にバイエルン州立歌劇場管弦楽団の室内楽コンサートに行ってきました。弦楽四重奏のコンサートは何とこれが人生初。なかなか面白かったです。各パートの演奏に「歌心」を感じられたのは大きな収穫でした。オペラをベースに活動しているオケの表現力の多彩さの秘密を垣間見たような気がします。（1月11日（日）＠バイエルン州立歌劇場レジデンツ）
夜はバイエルン州立歌劇場「セルセ」を観ました。いわゆる現代っぽい演出なんですが、初めて観る私にはちょっと難しかったような… 歌手陣は突出している人はいないのですが、全体的に高水準のアンサンブルが形成されていて満足度は高かったです。こういう演目を常に取り上げるようにしたピーター・ヨナス監督の手腕に感動し、いつか日本でもこういう演目が日常的に観られるようになるといいなぁと思いました（難しいでしょうけどね）。（1月11日（日）＠バイエルン州立歌劇場）
12日の午後にミュンヘンからウィーンに移動し、夜はウィーン国立歌劇場「椿姫」の鑑賞です。指揮は準・メルクル。これの詳しい感想は後日別ページにアップします。（1月12日（月）＠ウィーン国立歌劇場）
東京で今年最初に観たオペラが東京室内歌劇場「卒塔婆小町」「女の平和」のダブル・ビルです。「卒塔婆小町」は佐藤ひさらの歌唱が非常に素晴らしかったです。また、石桁の作品もとても面白かったです。もっと上演されてもいいのでは。それに対し、シューベルトの「女の平和」はいかにも上演回数が少ないことが分かるような作品でした。作品の魅力が薄くなると、歌手たちにフォローしてもらいたいものですが、歌手も無難にこなすだけで作品の真価を聴かせることはできなかったように感じました（作品の薄っぺらさを歌手がフォローした好例はホセ・カレーラス演じた「スライ」でしょう）。（1月17日（土）＠めぐろパーシモンホール）
藤原歌劇団「ラ・トラヴィアータ」は新年の恒例行事となっていますが、まともなアルフレードが確保できないのであれば無理してやらなくてもいいのでは？と強く思いました。ヴィオレッタのマリア･コスタンツア･ノチェンティーニ、ジェルモンの堀内康雄はまぁまぁといった出来でしたが（もちろん問題点はありますが）、それにしてもアルフレードのサルバドール･カルボは酷かったです。どうしてスペインからわざわざ呼んだのか理解に苦しみます。しかも初役でアルフレード役の実績も無いのに。「誰でも横文字の名前なら人が入るからいいんじゃない」という考えをしているということは無いでしょうが…
また、ジュリアーノ･カレッラの指揮も焦点が定まらないもので居心地が悪かったです。出演者がもっとしっかりしていれば別の結果になったかもしれませんが、美点が感じられませんでした。ベッペ･デ･トマージの演出は完全に毒気が無くなり、どのようなドラマを作りたかったのか、焦点が完全にぼやけていました。総じて、ルーティン・ワークの悪例がこれだ！というプロダクションでした。（1月18日（日）＠オーチャードホール）
新国立劇場「鳴神」「俊寛」のダブルビルは市川團十郎のオペラ初演出ということで大きな話題となりましたが、私の感想は歌舞伎を観たいなら歌舞伎座などに行けば良し、ということです。歌舞伎を題材にしたオペラをなぜ歌舞伎風に演出しなければならないのか、もっと大胆なアプローチをしても良かったのではないでしょうか。團十郎が演出するのであれば、歌舞伎とは全く関係のない作品の方が（成功するかは別として）面白いものになったと思います。もちろん、演出としては過不足無いもので演劇的にも楽しめたのですが、もっと別の方法があってもいいはずです。出演者は皆好演していましたが、今回の主役は秋山和慶指揮の東響でしょう。オケはとっても素晴らしかったです。（1月31日（土）＆2月1日（日）＠新国立劇場オペラ劇場）
新国立劇場「外套」の詳しい感想は後日別ページにアップします。（2月7日（土）＆8日（日）＠新国立劇場小劇場）
劇団四季「思い出を売る男」は加藤道夫の戯曲です。「思い出を売る男」の周りに集まってくる人々の描写が細やかで、短いながらも印象的な作品です。しかし、こういう作品だからこそ主人公の「佇まい」はものすごく難しいですね。脇役のベテランが非常に引き締まった演技だったのに対し、主人公を演じた石丸はこの役を消化しきっていないのか、ちょっと中途半端な印象を持ちました。（2月11日（水）＠自由劇場）
新日本フィルハーモニー交響楽団名曲シリーズに行きました。指揮は広上淳一です。1曲目のモーツァルトのモテット「踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ」では広上のセンスの良さをたくさん味わうことができました。ソロの林正子が歌いやすいように組み立て、一緒に呼吸しているんですよね。オケをメインにしている指揮者が歌の伴奏をすると、歌手の呼吸を理解しないで振る場合が多々見受けられますが、広上は違いました。また、モーツァルトの「枠」をはみ出ることなく、魅力に満ちた演奏はとても素晴らしかったです。ソロの林は久しぶりに聴きました。最初は固かったものの、徐々に彼女が本来持っている伸びやかな声を堪能することができました。後半のチャイコフスキーの第6番「悲愴」もドラマ性豊かに指揮し、新日本フィルの持ち味を漏らすことなく表出させていました。（2月14日（土）＠すみだトリフォニーホール）
新国立劇場「スペインの燦き−ラヴェル〜バレエとオペラによる〜」は壮大なる実験が大失敗に終わったという感じです。久しぶりに満場のブーイングを聴きました。詳しい感想は後日別ページにアップします。（2月18日（水）＆21日（土）＠新国立劇場オペラ劇場）
新国立劇場「The Game／ザ・ゲーム」は新国立劇場の演劇部門が年に一度行っている海外招待作品です。今回は香港の劇場組合（Theatre
Ensemble）を招致しました。なかなか面白く、かつ不条理劇でストーリーを一度ではきちんと把握できなかったので、できることなら複数回観たかったです（スケジュール上無理でした）。もっとお客が入ってもいいと思うのですが、出演者がアジア人だとなかなか集まらないものなのでしょうか。オペラでも実績がある日本人よりも実績がない横文字の歌手の方がお客が入ったりしますからね…（2月21日（土）＠新国立劇場小劇場）
二期会「エジプトのヘレナ」は今回が日本初演となります。この公演の価値は、この日本初演した、ということぐらいでしょうか。また、なかなか上演されない理由もハッキリと分かったような気がします。音楽と台本の調和が難しいという典型的な例でした。そんな中、若杉弘指揮の東京フィルは頑張りました。歌手も横山恵子、福井敬をはじめ、みな頑張りました。しかしこの「頑張った」だけでは悲しいです。初演だからこそ単なる「紹介」だけではなく、作品の本質を思いっきりえぐってもらいたかったです。その作業が激しく欠落していたのが演出の鈴木敬介です。「初めての作品はオーソドックスに」的な発想を持っているみたいですが、その考え自体は決して悪くはありません（個人的には賛否相半ばです）。しかし、「オーソドックス」という言葉は「何もしない」ということではありません。「スペインの燦き」のニコラ・ムシンもそうでしたが、ドラマを作れないとどうしようもありません。今回の公演の決定的な不満はここにあります。（2月22日（日）＠東京文化会館）
新国立劇場「サロメ」は再々演となりますが、今回が一番満足する公演となりました。詳しい感想は後日別ページにアップします。（2月24日（金）＆3月7日（日）＠新国立劇場オペラ劇場）
Bumkamura「カメレオンズ・リップ」はケラリーノ・サンドロビッチ（注：日本人です）の新作です。演劇の世界で人気が高まっている彼を初めて観る、しかも新作ということでなかなか期待していたのですが、こっちの期待値が高すぎたのか… ドラマの核があやふやなまま終わってしまいました（おそらく、彼自身がそのような考えで組み立てたのだと思いますが）。また、冗長と感じる部分も少なくありませんでした。出演者が堤真一、深津絵里をはじめとする俳優陣は素晴らしい熱演でしたが、やはり肝心の作品そのものに魅力が少ないとなると、満足度は低くなってしまいますね。（2月28日（土）＠Bunkamuraシアターコクーン）
この「カメレオンズ・リップ」を観た後に「ハムレット」を観ると、作品の奥深さに圧倒されます。劇団四季「ハムレット」は改めて作品の魅力を味わうことができました。下村尊則のタイトルロールには言葉から溢れる熱さと、発する言葉の重みに素晴らしい！と感じました。その他の俳優も皆良かったです。演出は群衆が出るシーン以外はシンプルで良かったです（浅利慶太は群衆の扱いがなぜここまで上手くないのでしょうか）。ただし、もう少しスピード感があっても良かったかなとも思いますが、これは何でも急ぎすぎる「現代の病」なのでしょうか！？（2月29日（日）＠自由劇場）
新国立劇場「こんにちは、母さん」は2001年3月に初演され、圧倒的な大成功をおさめました。その再演です。私は今回初めて観たのですが、とても素晴らしかったです。そしてなぜ初演を観なかったんだろう、という後悔が襲ってきました。絶賛しても足りないのは加藤治子と平田満の親子コンビです。また、それよりも大きい拍手を作・演出の永井愛に贈りたいです。この親子の周りにいる登場人物も魅力溢れる人ばかりで、演じる俳優も粒揃いでした。今回は新国立劇場での上演の後、全国数カ所をまわったみたいですが、こういう素晴らしい作品はどんどん外に出てもらいたいですね。また再演があったら絶対に行きたいと思います。（3月12日（土）＠新国立劇場小劇場）
トヨタ・コミュニティーコンサート「ラ・ボエーム」はプッチーニのではなく、レオンカヴァッロの作品で日本初演となりました。私もアリアを一曲聴いただけだったのですが、全曲を聴いてみて、確かにプッチーニの方が生き残るなぁって感じました。おそらく「ラ・ボエーム」というドラマの中核をどこに据えるか、という違いでしょう。若手中心の出演者はよく健闘したと思います。こういう取り組みが一度っきりで終わってしまうのは非常に勿体ないです。あと、これは公演とは関係ないのですが、三枝成彰氏の説明が長すぎて予定終演時間を大幅にオーバーしちゃいました。今回はプログラムも無料でしたし、言いたいことがあればそっちに書き、鑑賞に必要な集中力の低下に繋がるような「おしゃべり」は止めてほしいですね。ちゃっかり「Jr.バタフライ」の宣伝もしていたし…（3月13日（土）＠ゆうぽうと簡易保険ホール）
昨年の「イタリアのトルコ人」に引き続きロッシーニを取り上げた藤原歌劇団「アルジェのイタリア女」、ロレンツォ・レガッツォ（ムスタファ）とロベルト・デ・カンディア（タッデオ）がとても素晴らしかったです。しかし、全体のバランス、様式感を考えると、アグネス・バルツァのイザベッラは非常に違和感が残りました。もちろん、彼女には彼女しか持ち合わせない魅力があるのですが、やっぱりバランスは（特にロッシーニでは）大切ですよね。Bキャストの公演を聴いてみたかったです。上記ラ・ボエームで聴けませんでした。共に日本人中堅、若手の公演、できることなら分散させた方がお互いにとって有益ですよね。（3月14日（日）＠東京文化会館）
そのバルツァが行ったユニークなコンサート、アグネス・バルツァ「わが故郷ギリシャの歌」は文字通り全編ギリシャのフォークソングで構成されていました。このコンサート、一番に指摘しないといけないのは余りにも酷い音響ですね。曲の性質上PAを使うのもやむを得ないと思いますが、せめて彼女の声質、ボリュームを考えた音響設計をしないと。彼女の美点のほとんどがかき消されていたと思います。そんな中でも本プロの最後の曲「今、そして永遠に」の絶唱は一生心に残るでしょう。また、本プロでも歌った「汽車は8時に発つ」をアンコールでも歌ったのですが、その時はマイクから離れて歌いました。これも良かった！ でも、オーチャードホールでこのコンサートを生声で歌い続けるのは不可能でしょう。お客の入りもそんなに良くなかったですし、隣のシアターコクーンでやった方がもっといい結果を生んだような気がします。（3月21日（日）＠Bunkamuraオーチャードホール）
上記のコンサートの後、サントリーホールに移動。イアン・ボストリッジ＆内田光子・リートの夕べ「美しき水車屋の娘」を堪能しました。ボストリッジの繊細かつ自由奔放な歌い方に内田は真っ向勝負、といった感じで（いい意味で）非常にスリリングな公演となりました。内田は「伴奏」というレヴェルではなく、まさに「競演」でした。その凄みは23日の「冬の旅」でさらにヒートアップ。ぶつかり合いから生まれるエネルギーって凄いですね。これを聴くと、01年12月に流れてしまったマティアス・ゲルネ＆アルフレード・ブレンデルの「冬の旅」もぜひ聴きたかったなと思っちゃいました。（3月21日（日）＆23日（火）＠サントリーホール）
新日本フィルハーモニー交響楽団「サロメ」（コンサート・オペラ形式）では音楽監督アルミンクの棒捌きのセンスに惚れ込みました。決して下品にはならず、バランスもなかなか良く、新国で振ったハイダーよりやっぱり全然いい指揮者だね、と再認識しました。出演者は全体的にバランスが良かったですが、ヨハナーンのユルゲン･リンはちょっと弱かったかな。また、ヘロディアスで出演したアニヤ・シリヤを聴けたのはとてもラッキーでした。次回のベートーヴェン「レオノーレ」も期待が持てます。（3月25日（木）＠すみだトリフォニーホール）
新国立劇場「神々の黄昏」で遂にTokyoRingも4作を出し終えました（もちろん「完結」ではないです。出演者、スタッフが舞台を更に練り上げツィクルス上演をした時が完結です）。こちらも感想は別掲で。（3月26日（金）、27日（土）、29日（月）、31日（水）、4月1日（木）、4日（日）【要は全日なんですが＾＾；】＠新国立劇場オペラ劇場）
そんな「黄昏」上演中に中劇場で観たのが野田秀樹の演劇「透明人間の蒸気（ゆげ）」です。野田戯曲の面白さと難解さ（一度観ただけでは掴み切れませんでした）を感じました。現在の情勢をも反映した舞台、刺激に満ち溢れていました。出演者も皆大熱演で、特に主演の宮沢りえと阿部サダヲ、ものすごく輝いていました。これを観て、野田秀樹の演出家としての腕を感じると同時に、5月の「マクベス」との差異を感じちょっと不安にもなりました。「蒸気」等野田作品の多く（殆ど？）は彼自身が作、演出（また出演も）しているもので、シェイクスピアの原作に台本、はたまたヴェルディの音楽という制約だらけの演目でどう手腕が発揮できるか…（4月3日（土）＠新国立劇場中劇場）
極めて充実したコンサートに沢山巡り会ったこの一月、これではルチアーノ・パヴァロッティ・ファイナル・ワールドツアー・イン・ジャパンで満足できるわけがありません、と思いながらサントリーホールを売ったのですが、さすがに「最後の公演」となる6日の公演は見に行きました（観る、聴く、ではない）。いや〜、酷いことは覚悟していたのですが、これほど酷いとは… 会場が東京国際フォーラムのホールAなので、PAはもちろん使っているのですが、それに頼り切って特に歌曲では全く歌っていない！ 声を垂れ流す状態でした。中盤あたりから徐々に調子は良くなりましたが、それでも歌唱に満足することは一瞬もありませんでしたね。チケットを大幅に売れ残り多数の動員がかかったようですが、あの高額な設定といい、聴衆を馬鹿にしてはいけませんよね。（4月6日（火）＠東京国際フォーラムホールA）
三枝成彰の新作オペラ「Jr.バタフライ」、1,000円の席だから良かったです！？ プッチーニの「蝶々夫人」の続編、ということでしたが、今回の一番の問題は台本にあったと思います。ドラマの中心は何なのか。下手に戦争に対する、現在の情勢に対するメッセージを埋め込んでしまったため、ドラマとして完全に破綻していました。もちろん「あっ、ここいいな〜」という場所もありました。ジュニアに与えられたアリアはとても美しかったですし、それを歌った佐野成宏も非常に素晴らしかったです。直野資の野田少佐（ナオミの兄）も出番が短いながらも存在感を残しました。それと比べると、佐藤しのぶのナオミ（ジュニアの恋人）は満足からは遥かに遠い出来でした。彼女、昨年秋から感じている「骨粗鬆症」がますます激しくなっている感じで。演出のダニエレ・アバド、別のオペラで観たかったです。彼のメッセージも明確でしたね。でも、それが台本や音楽とマッチしてるかというと、そうでもなく… 大友直人＆東響は良かったです。こういう新作系を積極的に演奏する東響、状態は相当良くなってきていると思います。（4月10日（土）＠東京文化会館）
映画にもなった「アマデウス」の作者として知られているピーター・シェーファー。彼の他の作品を観ました。劇団四季「エクウス」です。日下武史演じる精神科医マーティン・ダイサートを訪れるアラン･ストラング（望月龍平）。彼らの対話から出てくる厳しい世界、時にユーモラスに、時にシリアスに。ダイサートが最後に自分自身に、そして客席に投げかける「正常とは何か？」という言葉の重み。とても素晴らしい舞台でした。それを一身に引っ張っていたのは日下でしょう。望月も健闘していましたが、発せられる言葉の「真実味」にはまだまだ鍛錬が必要だと感じました。こういう少人数、緊密な空間の劇では浅利慶太の演出も光ります。（4月14日（水）、5月7日（金）＠自由劇場）
新国立劇場バレエ「ロメオとジュリエット」は舞台上での表現の多様さに魅了され、舞台下から流れてくる音楽の無惨さにガックリしました。アレッサンドラ・フェリ演ずるジュリエット、まだちゃんと若々しく見えるから不思議ですよね。アンヘル・コレーラのロメオももその思いを真っ正面から受け止め、素敵な舞踏を見せてくれました。マキューシオは前回熊川哲也が急遽出演して素晴らしいのを見せてくれましたが、その時の印象がちょっと強すぎますね。踊りの「切れ」が気になってしまいました。まぁ比べること自体がナンセンスなんですが。問題は、ピットなんですよね。これまで様々な舞台で東フィルを聴きましたが、今回が群を抜く悪さでした。アンソニー・トゥイナは「指揮」者でなく、まるでメトロノームのような感じでした。音楽だけでも一夜のコンサートが開ける程の作品なのに、その真価は遥か彼方へ吹っ飛んだ感じです。東フィルのメンバーも猛省してもらいたいですね。（4月16日（金）＠新国立劇場オペラ劇場）
東宝ミュージカル「エリザベート」、約3年ぶりの再演となりましたがそれなりに楽しむことができました。まずはこれまでこの役で聴いて満足できなかったタイトルロールの一路真輝。今回はとても調子が良かったです。以前よりも発生がスムーズになった感じがします。まぁこれまで聴いた時がたまたま調子の悪い時だったのかもしれませんが、なぜ彼女が（一人）タイトルロールに起用されたか、ようやっと理解できました。トートの内野聖陽はひたすら演劇的に魅せてくれましたが、ミュージカルだから歌ももっともっとしっかりしてくれないと困ります。彼の場合、自身が持っている言葉の表現力は多彩なのに、それを歌に乗せることができないんですよね。逆に、歌が上手くなれば演技良し、歌も良し、という素晴らしい俳優になれるのですが。フランツ・ヨーゼフ演じた鈴木綜馬をはじめ、その他のキャストも好演でした。問題は装置でしょうか… 何故「電光掲示板」（正確には透過式のＬＥＤパネル）を使ったのでしょうか… 目も粗いし、あれを使った演出は陳腐の一言です。（4月17日（土）＠帝国劇場）
上記好演の後、銀座で一休みをしてル・テアトル銀座へ。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー（RSC）「オセロー」を観ました。前から2列目で観るとものすごい迫力ですね。しかし、満足度はそこそこです。まずは（これは舞台とは全く関係ないのですが）椅子が悪かった。集中して台詞を聴くには安定したポジションで座りたいです。そして第二が（これまた舞台とは関係なし）イヤフォン・ガイド。なぜ日本語字幕じゃダメなのでしょうか。これも舞台俳優の声を聴くのを妨げちゃうんですよね。せっかく言葉のニュアンスを楽しみたいと思っても… そして、オセロー（セロー・マーク・カ・ヌクーベ）の解釈。これは演出（グレゴリー・ドーラン）に負うところが大きいと思うのですが、一言でいうとオーバー・リアクション。アントニー・シャーのイアーゴーもこちらの期待が大きすぎたのか、「ん〜、普通かな？」って感じです。RSCと言うことで、こちらの期待が過剰だったのかもしれませんね…（4月17日（土）＠ル・テアトル銀座）
こういうオペラも時には有りかな、と思ったのがサントリーホール「トスカ」。シコフの演歌的というか、若手の指揮者だからやりたい放題なのか、とにかく「独り相撲」って感じでした。それはスカルピアのブルゾンにも当てはまるのですが、彼はもっとスタイリッシュですね。そんな中でも若手の二人、タイトルロールのドイナ・ディミートリゥと指揮のニコラ・ルイゾッティも好演。これからも続けて聴きたい二人だなと思いました。演出のダリオ・ポニッスイはもっと大胆に切り込んでも良かったでしょう。余りにも普通の舞台でした。装置・衣裳・照明の石井幹子も同様。劇場でないので抽象的になるのは当たり前で、そこからもう一歩欲しいです。照明はやはり本職とあってとても綺麗でした。衣裳のアイデアは空回りですね。ブルゾンは衣裳を拒否したのでしょう（相変わらずワガママですね）、元のイラストが若干見えるぐらいでした。今回観た印象だと、シコフ、ブルゾンなどベテランに頼らず、思い切って若手ばっかりでやってもいいのではないでしょうか。（4月18日（日）＠サントリーホール）
クルト・マズア率いるフランス国立管弦楽団の演奏会、曲によって面白かったりつまらなかったり色々でした。一番気になったのが、マズアのテンポの嗜好と、オケの嗜好のベクトルが若干ずれているように感じたことです。ゴルチャコフ編曲の「展覧会の絵」、結構面白かったです。マズアが好んで取り上げているみたいですが、他の指揮者、楽団の評価も気になるところです。ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲のソリスト、セルゲイ・ハチャトゥリアンはとても良かったです。今後の活躍にも期待が持てる、というところでしょうか。（4月19日（月）＠東京文化会館）