サイトウ・キネン・フェスティバル
「ヴォツェック」

2004. 8.31.Tue.19:00　まつもと市民芸術館

ベルク：歌劇「ヴォツェック」（3幕）

　小澤征爾のサイトウ・キネン・フェスティバル、今年は他の指揮者も参加しますが、それでも彼を中心に回っているのは間違いありません。その彼のオペラ観が大変気になる公演となりました。

　小澤征爾の指揮、管弦楽のみをクローズアップするととてもメリハリがあるんですが、歌手とのバランス感覚が決定的に欠けているんですよね。一言で言えば、歌手の繊細な表現を全て大音量で掻き消してしまう公演でした。特に今回の公演ではピットを浅くしていたので、余計にそう感じることになりました。ピットを浅くしたのは、舞台が装置の都合で若干高い位置にあったためと言うことですが、それだったら、バランスをもっと考えた方が良かったと思います。

　小澤の管弦楽の扱いの巧みさ、特にダイナミクスの扱いはとてもいい感じなんで、舞台を意識してバランスを取ればかなりいい水準になったのではないでしょうか。そこがとても惜しまれる所なんですよね。今回の公演で思ったことは、来年の東京のオペラの森の「エレクトラ」、どういう演奏になるかがだいたい予想できちゃいましたね。もっとも、「エレクトラ」の方が歌手もガンガン歌ったりするので、この公演よりはいいベクトルに進むと思いますが。

　演出は時、場所などを一切排したもの。登場人物も全員同じような衣裳、メイキャップで徹底的に属性を排除したような感じでした。こうなると、歌手一人一人の歌唱、演技にかかっているのですが、舞台前方にあるピットの演奏が上述のとおりでしたので…

　安藤忠雄の舞台、ペットボトルを4万4千本使って全てを構成していました。このアイデアはこれまでに観たことのない非常にユニークなものでした。これに照明や衣裳・メイキャップがフィットしていました。オペラ初挑戦で色々苦労もあったみたいですが、それも報われるような結果を収めることが出来たと思います。次はどこで彼の舞台が観られるんだろう…なんて思っているんですけどね。日本じゃなくて海外かもしれませんが。

　期待のマティアス・ゲルネ、前半はかなり低速でしたが、後半は大分立て直したように思いました。今回の管弦楽が原因なのか分かりませんが、この役が彼の声にフィットしているかがイマイチ分からないんですよね。「没個性」の状況では歌手に全てがかかっています。そういう点から考えると、今回の彼は主役としてはちょっと物足りなかったです。

　マリー役のクリンゲルボルンは彼女も出だしこそやや硬かったものの、非常に素晴らしい演唱だったと思います。今回の出演者で一番印象に残りました。他の出演者も管弦楽の壁にぶち当たりながらも、よく演じていました。鼓手長のマルギタ、大尉のメリットが特に印象に残っています。


　さて、今回まつもと市民芸術館のこけら落としとなったのですが、劇場で気になった点をいくつか。まずは、客席までの道のりがよく分からないんですよね。また、上階の通路が狭すぎます。開演前はともかく、一気に流れる終演後は非常に混雑していましたね。劇場のデザイン、スペースの問題もあったのかもしれませんが、劇場は「美術品」ではなく、使われてなんぼのものなので、観客をもっと意識した作りにすれば良かったと思いました。

　あとはレストラン。一体何分待たせるんでしょう。開演までの時間が迫っている、調理〜食事の時間も考慮しているとは全く思えない応対振りでした。レジの時間も長かったです。まぁ一言で言うとダメダメなんですね。これだけ時間がないと分かっていれば、相席や注文後すぐに出せるような体制作りが出来ていて「当たり前」だと思うのですが、それが全然なっていないんですよね。あまりにも腹が立って「責任者呼んで」と言い、ウェイターも了承したのですが、結局来ませんでした…　アイスレモンティーを頼んだのに、出てきたのはホットミルクティー…　これほどホスピタリティが無い所も初めてです。

　さて、市のトップが変わるほど揉めに揉めた末に出来た新劇場ですが、サイトウ・キネンは2年間オペラの公演が無いみたいです。何というか、勿体ないですね。そもそもオペラとオケを並行して上演するために作った劇場のはずですが、今回もオペラとオケの期間が完全に分断されていました。これなら昨年までと同様に松本文化会館でやっても問題なかったような気がしますが。

　ごめんなさい、オペラそのものよりも他のことで感想が長くなった気がします…

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