二期会
「蝶々夫人」

2003. 9.27.Sat.16:00 /  9.28.Sun.15:00　東京文化会館大ホール

プッチーニ：歌劇「蝶々夫人」（2幕・字幕付）

　創立50周年記念公演を終えた二期会の新たな第一歩です。今後も「ルル」「鳴神」「俊寛」「エジプトのヘレナ」「イエヌーファ」など意欲的な公演を予定している二期会が、若手中心のキャストでオペラの定番「蝶々夫人」をどのように見せてくれるか注目した公演でした。

　今回のオペラの注目はコバケンこと小林研一郎がピットに入るということでした。彼のポリシーは非常に明確で、オケからは非常に充実した音を引き出していました。このオケに対する手腕はこれまで聴いてきた指揮者の中でもかなりいい線を行っていると思います。しかし、彼の伝えようとしている音楽が「ピット」の中で終わっているんです。ピットの上にある「ステージ」では全く彼の意図が伝わっていないように強く感じました。これは、指揮者がオケばっかり気にしていたからか、歌手が彼の要求に全く付いていけない（orできない）か、あるいはその両者か…　非常にもどかしい思いでいっぱいでした。

　蝶々夫人を歌った木下は「これからの人」です。持っている素材は悪くないと思いますが、この規模の劇場で歌うには時期尚早でしょう。声がなかなか伝わってこないんですよね。もっと小さな劇場で歌い込んでいけば、そう遠くない将来、東京文化会館を喝采で埋め尽くすことができるかも…と感じます。腰越は声に合っていない役柄を歌っているように（歌わされているように？）感じました。彼女にはもっとフィットする役が絶対にあるはずです。そんな中、よくここまで演じたなとも感じました。これは、彼女の演技力に助けられたのでしょう。

　ピンカートン、こちらは新旧のお二人という感じですが、井ノ上は不思議なくらい歌えていませんでした。まだ「賞味期限」が切れるには早すぎると思いますが。声が空間に全く乗らないんですよね。途中でヘロヘロと失速している感じで。一方の水船は木下と同じ印象です。何もいきなりこういう大きな劇場で歌わせなくてもいいのにと感じました。無理にスターを作ろうとすると、その歌手の生命を短くしてしまいます。また、彼の声質を考えても、この役がいいとは思えないのですが…

　シャープレスはベテランのお二人でしたが、こちらはいい味を出していました。歌唱的には蓮井が非常に素晴らしかったと思います。その他のキャストは突出していいと思う人はいないものの、逆に酷いなぁって人もいない、まさに「二期会らしい」出来映えだったと思います。

　栗山の演出は今回も基本的には超オーソドックスに、ただし美術などで多少のアクセントを与えていたと思います。まさに「日本人が安心してみることができる舞台」これもまた、「二期会らしい」のかもしれませんね。ただ、以前観た（そして今後は観ることのできない）新国のプロダクションの方が、舞台機構の充実もありもっと面白かったですが。

　歌手の育成には非常にデリケートさが求められると思います。前作の「ばらの騎士」では声とどう考えても合わない幸田がゾフィーを歌うということがありましたが、よくよく考えないと、せっかく出てきた芽を摘みかねません。そこはよくよく気を付けないといけませんよね。

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