ソフィア国立歌劇場日本公演
「ドン・カルロ」
2002.12.15.Sun.14:00 東京文化会館大ホール
ヴェルディ：歌劇「ドン・カルロ」（ミラノ改訂版【イタリア語4幕版】・字幕付）
| スタッフ | |
| 指揮 | ウラディミール・ギャウロフ |
| 演出 | プラーメン・カルターロフ |
| 装置 | リュボミル・イオルダノフ |
| 衣裳 | ダニエラ・イオダノヴァ |
| 合唱 | ソフィア国立歌劇場合唱団 |
| 管弦楽 | ソフィア国立歌劇場管弦楽団 |
| キャスト | |
| フィリッポ二世 | ニコラ・ギューゼレフ |
| ドン・カルロ | ボイコ・ツヴェターノフ |
| ロドリーゴ | ウラディーミル・ストヤノフ |
| エリザベッタ | アンナ・トモワ＝シントウ |
| エボリ公女 | マリアナ・ペンチェヴァ |
| 大審問官 | ディミター・スタンチェフ |
| 修道士 | ペタル・ブチコフ |
| テバルド | スネジャーナ・ドラムチェヴァ |
| レルマ伯爵 | ゲオルギ・ドゥコフ |
| 王室の布告者 | サルヴィ・マノフ |
| 天よりの声 | ヴェセリーナ・ヴァシレヴァ |
私の二番目に好きなオペラということで、とても楽しみに会場に向かいましたが、その満足度は昨年聴いてきたサントリーホールや新国立劇場のプロダクションまでは及ばないものの、なかなか高いものになったと思います（余談ですが、一番好きなオペラは「エフゲニー・オネーギン」です）。
右のキャスト順に。フィリッポ二世を演じたギューゼレフはピットのオケが鳴らし過ぎたせいもあるのでしょう、声量が若干不足しているように感じました。また、存在感も薄く、フィリッポ二世としては不満の出来となりました。極端に崩れることはないのですが、この役に求められるパワーが足りなかったように思えます。まぁ加齢によるところも大きいのでしょうが…
タイトルロールのツヴェターノフは声が大きいだけで、彼も「ドン・カルロ」としての存在感は皆無でした。彼のリサイタルを聴いているわけでないので、こういう演技、歌唱は困りものです。指揮者や他の出演者が必死に作っている音楽の流れにも我関せずといった感じでひたすら大きい声で歌うのは… ただ、第4幕のエリザベッタとの二重唱はトモワ＝シントウが良かったというのもあるのでしょうが、なかなか聴かせてくれました。でも、もう一度聴きたい歌手かと問われたら即座に「NO」と答えるでしょうね。
ロドリーゴを演じたストヤノフは素晴らしかったです。時々線の細さが気になる時もありましたが、しっかりと誠実に歌う姿に大いに好感を持つことができました。特にソロよりも重唱の方が彼の長所が出ていたと思います。スターのオーラが出ているわけではないのですが、こういう歌手が日本でもっと活躍できたら、日本のオペラ界の底上げもできるのかなぁなんてことも考えてしまいました。
大ベテランのアンナ・トモワ＝シントウは初めて聴くことができましたが、もっと早く、彼女の全盛期に聴きたかったという思いを強く抱きました。加齢による声の衰えが散見され、声域、声量的につらい箇所も多かったのですが、彼女の声が内包する「響き」はとても魅力的です。特にゆったりとした場面での声の「乗せ方」はお見事の一言で、若手歌手も力任せ、もしくはビブラートの響きに声を沈めてしまうのではなく、彼女のような歌い方をして欲しいと強く感じました。第4幕が一番印象的で、冒頭の大アリア「世の空しさを知る神よ」はもちろんのこと、ドン・カルロとの二重唱は彼女の素晴らしさを味わうことができました。
藤原歌劇団や新国立劇場で聴いたことのあるペンチェヴァは今回は圧倒的な力を見せてくれました。「ヴェールの歌」、「呪わしき美貌」といったソロも素晴らしかったですが、第2幕第1場のドン・カルロとロドリーゴとのシーンは今回の公演の一番の聴き所となりました（これでツヴェターノフも良かったら…）。今回の公演は彼女のおかげでかなり感動したといっても過言ではありません。今度はアムネリスも聴いてみたいかな… 彼女だったらきっと素晴らしいと思うのですが。
大審問官のスタンチェフはちょっと押しが弱かった印象です。もっとも、ギューゼレフと比べるとちょうどいいのかなぁとも思いましたが、王を圧倒する力が欲しいところです。また、修道士のブチコフももう一歩踏み込みが欲しいと思いました。特にラストですね。オペラの最初と最後を飾るこの役、かなり難しいように思えてなりません。また、天よりの声のヴァシレヴァは音程も何もあったものではなく、かなり聴いていて辛かったです。
指揮者のギャウロフ（父親はニコライ・ギャウロフです）は躍動感溢れる指揮ぶりで好感が持てたのですが、ちょっと鳴らしすぎの面も。おかげで一部の歌手はオケとの苦しい戦いを強いられることになりました。鳴らしまくったオケはかなり上手かったと思います。座付きオーケストラの持つ底力を見せてくれました。時々海外の歌劇場の来日公演を見に行きますが、オケのポテンシャルの高さは聴くたびに思い知らされます。日本のオペラハウスも常設のオケを持った方がいいのは芸術的観点からは明らかなことなのですが…
オケはなかなか良かったのですが、合唱は全然よくありませんでした。全然声が出ていないんですよね。まぁ普段は東京文化会館よりも狭い歌劇場で歌っているせいかもしれませんが、あれだけ聞こえないのは困りものです。また、第1幕の男声の影コーラスで音程を取るためにピアノを使うのは勘弁していただきたかったです。万が一使うとしても、あれだけ明確にピアノの音が聞こえるのはいけません。
演出はあまり印象に残っていません。最後にカルロが殺されるのは一瞬オッと思いましたが、それ以上は何も感じませんでした。ただ、照明の使い方はなかなか良かったと思います。クレジットに照明の担当者が載っていないのはなぜでしょう。
一部のキャストに不満は残ったものの、大好きなオペラだからかもしれませんがとても楽しむことができました。また日本公演があればぜひ聴いてみたいと思います。