新国立劇場2001/2002シーズン
「マノン」

2001. 7. 5.Thu.18:30　新国立劇場オペラ劇場

マスネ：歌劇「マノン」（5幕、字幕付）

　新国立劇場のマスネの作品といえば、昨年の「ドン・キショット」の名演が思い出されます。今回の「マノン」も新国立劇場の今シーズンを締めくくるのにふさわしい上演だったと思います。

　まずは歌手陣について。タイトルロールを演じたヴァドゥヴァは生で観るのは3回目（オペラでは初めて）でしたが、これまでで一番調子が悪かったのではないでしょうか。中音域は素晴らしいのですが、その分高音部が気になってしまいました。完全に力んでいて、聴いていて辛いところが多かったです。どうしても「でかく」なってしまうんですよね。サッバティーニの弱音が絶品な分、余計に気になってしまいました。コンディションが悪かったのではないでしょうか。第3幕第2場以降は良かったので、この調子が始めから発揮できればいいのですが…　と、歌唱部分は気になるところが多かったのですが、演技力が素晴らしい分後味は全く悪くありません。

　騎士デ・グリューを歌ったサッバティーニをオペラで聴くのは4年ぶりとなりました（藤原「ラ・ファヴォリータ」）。歌唱、演技面共に素晴らしかったです。彼の魅力は何といっても弱音です。「途切れないの？」と思うほどギリギリのラインで歌うことができる歌手は世界中探してもそうはいないでしょうね。しかし、これだけ素晴らしいと欲もでてきます。それは、もう少し「芯」がほしいということです。隠し味程度でいいんです。第1幕でそう感じてしまいました。しかし、第2幕以降は本当に良かったです。第2幕、第3幕第2場のアリアなど溜息が出るくらいです。

　彼らが歌った第3幕第2場以降は素晴らしい演出と相まって、最高の音楽体験を味わうことができました。これだけ素晴らしい二重唱を聴いたのは、ミュンヘンでの「スペードの女王」（第1幕第2場）とサントリーの「ドン・カルロ」ぐらいですね。でも、これらの二重唱よりも素晴らしかったかな…

　デ・カロリスのレスコーは上記の二人に比べるとどうしても見劣りしてしまいますがよかったですね。威厳とお茶目なところの二面性がもっとハッキリ出た方がいいかなとも思いました。11月の同劇場「ドン・ジョヴァンニ」のレポレッロ役も楽しみです。

　それ以外の出演者は残念ながら上記の三人とは水準があまりにもかけ離れていました。池田の伯爵は威厳はあり、台詞はいいものの歌はその水準には全く届いていない感じ。出番がそんなにないからあまり不満もありませんでしたが。

　鈴木のギヨーは「老害」。コミカルにやっているつもりかもしれないけど、全く声が出ていない。その分演技も虚しいんですよね…　まぁその演技もいいということは全くないのですが。なんでこんな人をキャスティングしたのでしょうか？？

　黒崎のブレティニも「老害」。何でこんな人にマノンは惚れちゃうんでしょう？　デ・グリューを捨ててしまうのでしょう？　そこんところが全く理解できなかったキャスティングでした。旅籠の主人を演じた築地も存在感ゼロ、それどころかマイナスといった感じです。

　男声陣が不甲斐ない中、女性陣の三人（腰越、永田、手嶋）はずいぶんましでした。もっと場数を踏めばより良くなるのではないでしょうか（男声陣はそうは思えません）。

　ギンガルは優雅な指揮振りでしたが、東フィルが彼の要求に全く追いついていない感じがしました。何と言えばいいのでしょうか…あのオケではドラマにのめり込めないんですよね。もっと艶がほしいですね。

　演出は71年にウィーン国立歌劇場でプレミエを迎えた舞台です。とてもきれいで無駄のない舞台でした。群衆の処理も的確だったと思います（ここが某ファッシーニでは…）　紗幕が全幕かかっていたのですが、ちょっと白すぎるかなと思ってしまいました。もっともこの演出のための特注らしいので、舞台は光量が相当強いのかもしれません。

　土曜日の舞台も楽しみです。ヴァドゥヴァの復調に期待しています。日本人男声陣には全くの期待をしていません（＾＾；

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